SYMPTOMS/CASES

前十字靭帯断裂 
(ゼンジュウジジンタイダンレツ)

前十字靭帯断裂とは?

|役割

前十字靭帯とは膝関節の中にある靱帯です。 犬が運動するときに膝関節が安定して屈伸運動ができるように、太ももの骨(大腿骨)とすねの骨(脛骨)を繋ぐ役割を担います。

 

|靭帯が切れるとどうなる?

前十字靭帯が損傷すると膝関節では強い炎症が起こり始め、生涯にわたって重度な痛みと跛行(はこう)を引き起こします。

 

|靭帯断裂の様式

以下の2種類に大別されます。
・完全断裂:前十字靭帯を構成する線維が全て切れてしまう
・部分断裂:前十字靭帯を構成する線維が一部だけ切れてしまう

 

|予後

片足に前十字靭帯の断裂が確認された犬は2年以内に40%の確率でもう片足の前十字靭帯も切れてしまうと言われています。そのため早期の治療が推奨されます。

 

前十字靭帯断裂の原因

加齢により靭帯の損傷が徐々に進んでいき、激しい運動をきっかけに断裂が起こると考えられています

▼断裂モデル(アニメ)  

前十字靱帯断裂で見られる症状

  • 跛行(負傷した足を庇うようにして歩く)が見られる
  • 負傷した足を挙上する
  • お座りしたときに後ろ足を投げ出すようにして座る(シットテスト画像)
  • 膝を曲げると嫌がる、痛がる
 

前十字靭帯断裂の検査・診断

|歩行検査

実際に歩いてもらいどのような歩様を示すのか記録、観察をします。
①痛いと思われる足の特定
②痛みの程度
③他の疾患との鑑別

に役立ちます。 メリットが多いため、詳しい問診の前にも実施されることが多い検査です。

▼歩行検査(【症例02】左右前十字靭帯断裂・左右膝蓋骨内方脱臼(柴犬)より)   <メリット>
  • 動物への負担が少ない。
  • 費用がかからない。
  • 術後の回復具合がわかりやすい。
<デメリット>
  • 重度の歩行不全の場合は実施ができない。
 

|身体検査

膝の触診を行い、膝関節の状態を体表面から確認します。 この段階で前十字靭帯の断裂が確認できる場合もあります。 また膝だけではなく、他にも痛みの原因がないか調べます。

▼脛骨圧迫試験

▼脛骨前方引き出し試験

  <メリット>
  • 動物への負担が少ない。
  • 検査自体に費用がかからない。
<デメリット>
  • 獣医師により検査の精度が異なる。
  • 確定診断に至らないことも多い。
 

|レントゲン検査

膝、および股関節にわたり後ろ足全体の撮影を行います。 レントゲンで靭帯は見えませんが、
①靭帯が損傷したことによる骨の変位
②関節炎の徴候

が見られることがあります。また、撮影された画像は手術計画を立てるためにも使われます。

▼側面像

▼正面像


  <メリット>
  • 動物への負担が比較的少ない。
  • 異常が客観的に見て分かる。
<デメリット>
  • 撮影枚数により費用がかかる。
  • 基礎疾患や呼吸器に異常が見られる場合、実施ができない場合がある。
  • 部分断裂症例の場合確定診断には至らない場合がある。
 

|関節鏡検査

上記の検査で靭帯の断裂が疑われた場合に
Q.それが完全断裂なのか?
Q.それとも部分断裂なのか?
Q.部分断裂だとすればどの程度負傷しているのか?

を膝の内部にスコープを入れ、直接確認する検査です。


  <メリット>
  • 通常の確認法と比べ傷口が小さく済むため、動物への負担が少ない。
<デメリット>
  • 全身麻酔が必要。
  • 費用が比較的高額。
 

前十字靭帯断裂の治療方法

|TPLO法(脛骨高平部水平骨切り術)

 

|TPLO法とは?

TPLO法は脛骨の斜面の角度を矯正し、緩やかな傾斜にすることで脛骨が前へ飛び出さないようにする手術です。

  <メリット>
  • 術後の経過が良好。
<デメリット>
  • インプラント使用による合併症の可能性。
  • 費用が高額。
  • インプラントのサイズが合わない一部の小型犬で実施できないことがある。
 

|ラテラルスーチャー法(関節外制動法)

切れてしまった靭帯そのものを再建するのではなく、失われた靭帯の機能を手術用の太くて丈夫な糸を用いて代替する方法です。 具体的には種子骨と脛骨と呼ばれる骨に穴を開け、そこに糸を通して脛骨が前に飛び出さないように輪をかける形で設置します。

  <メリット>
  • TPLO法と比較して費用が安い。
  • TPLO法の適応にならないほど体重が軽い小型犬で実施可能
<デメリット>
  • 設置した糸が切れることで症状が再発することがある。
  • 中、大型犬の多くは適応とならない(糸が切れてしまうため)。
 

|保存療法

数ヶ月の間、体長の1.5倍のケージやサークルの中で休ませる方法です。 原則ケージ外への移動を禁止し、同時に食事療法による体重制限も行います。 膝関節を温存することで症状の軽減が起こる場合があります。


  <メリット>
  • 老齢犬や疾患リスクのある動物に麻酔をかけなくて済む。
  • 費用が安い。
<デメリット>
  • 長期にわたりご自宅での厳格な管理が必要。
  • 関節炎の進行は止まらないことが多い。
 

参考文献

・SURGEON BOOKS 整形外科疾患に対する系統的検査STEPS 犬の跛行診断《10003924》P147-168
・いざという時に役立つ!犬と猫の骨折・脱臼の初期対応  監 本阿彌宗紀 望月学 P228-230
・SMALL ANIMAL SURGERY 小動物外科手術 下巻 著 THERESAWELCH/FOSSUM/HEDLUND/HULSE/JOHNSON/SEIM/WILLARD/CARROLL 訳/作野幸孝 監/松原哲舟 P957-964

前十字靭帯断裂